〜 き ん ぎ ょ ひ め 〜



 「じゃ 行って来るよ」

 ましろい服に身を包んだあのひとは、
 今朝もにっこり笑って水槽を「とんとん」とノックします。
 金魚姫はそれに応えるかのように、
 「ぽちゃん」と尾鰭で水面をたたきます。
 それがあのひとに自分のこころを伝える、
 たったひとつのできることでした。

 ぱたん、と部屋のドアが閉められる毎朝のこの時間、
 金魚姫は胸が引き裂かれるような想いがいたします。
 夜にあのひとが戻ってくるまでひとり、
 この部屋でぽつねんとしていることは、
 金魚姫にとっては喩えようもないながいながい時間でした。

 何故なら金魚姫は、
 あのひとを愛しておりましたから。(→)













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