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今年は春が来るのが早いようで、もう桜が咲き始めている。 舞台の方も暫く公演が無い事もあり、ぼくと隊長は息抜きに散歩に出かけた。 |
| うらうらとした暖かい日。 ぼくらは土手の芝生に腰掛ける。 見上げると、桜が咲いている。 花びらの淡い色合いが美しい。 昔なら「無意味な時間」と思っていた こういったゆったりとしたひとときが、 今ではとても大切な時間に思える。 |
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| 隊長と時間を共にすること、 それは一番心穏やかでいられる 時だということを、 今のぼくは知っている。 |
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| 隊長が巴里へ赴任していた時の あの辛かった日々は、 もう二度と味わいたくない。 隊長のことを考えると、 何故だか胸の奥がつきんつきんと 痛む。 隊長と一緒にいたいのに、 隊長にそばに居て欲しいのに、 とおもう。 こころが隊長で一杯になってしまう。 初めはこの得体の知れない 「感情」を持て余していた ぼくだったが、 それはぼくが隊長を 「好きだ」という事なのだと、 離ればなれになって初めて認識した。 |
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| 足下に萌え出た、 まだ緑の色も頼りない 名もない草を指で弄んでいると、 隊長が話しかけてきた。 「なぁ、レニ。」 「?」 「俺と一緒にならないかい。」 「・・・?・・・!!」 ・・・これはもしかして プロポーズっていうもの・・・? ぼくは普通の「おんなのこ」みたいに、 こんな風におとこのひとから 愛をうち明けられる人生なんか、 送れないと思っていた。 ぼくは普通の「おんなのこ」じゃない。 生まれてから殆どの時間は、 闇に包まれ、いつも誰かに 利用されていたようなものだ。 |
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| ヴァックストゥーム計画の 被験者だった時、ぼくは 「最大限に効率よく その霊力を引き出す」 為にいわば 「生ける霊子甲冑のパーツ」として、 「調製」された。 当然被験者の体には負担がかかり、 その為、同じ様に 被験者となった他の子達は、 死ぬか、 或いは廃人同様となっていった。 万が一、運良く 生きながらえたとしても、 調製体は定期的なメンテナンスを 必要とする。 つまり、メンテナンスを行わないと、 「死ぬ」ということだ。 ・・・メンテナンスを行ったとしても、 非調製体よりも寿命が短いという 試算もあるらしいが。 ぼくは最終調製前に 賢人機関の諜報部によって解放された。 が、しかし。 「機関の監視下に置く事で、 体のメンテナンスを密に行えるから」 という理由で星組に編入。 もちろんそれは建前であって、 実際のところは、 「実戦配備を想定した調製体の、 サンプルデータ採取」 という意味合いが大きい。 ・・・賢人機関でさえも、結局は ぼくを「戦闘機械」・「戦力」 としか見なかったという事実。 |
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| 来る日も来る日も、 殺戮と、破壊と、 絶望と虚無に満ち満ちていた。 そんなぼくは隊長に救われた。 隊長は、ぼくを 「利用の対象」、「戦うキカイ」 として見るのでなく、 「ひとりの人間」 として見てくれたのだ。 そんな隊長に、 少しづつ惹かれていくのは 当然のことだった。 不完全な調製体であるぼくは、 いつまで生きられるのか判らない。 でも、生きている限りは 隊長の側にいたい。 隊長の役に立ちたい。 |
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| 「・・・何も今すぐ返事をくれ、 って訳じゃないんだ。 レニがよく考えてからでいいんだよ。」 |
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| 「ううん。」 迷ってる訳じゃないんだ。 |
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| 「・・・ぼくは。 隊長と、一緒にいたい。ずっと。」 ぼくは自分に言い聞かせる様に ゆっくりと言葉を噛みしめながら、 隊長の目をまっすぐ見返して 返事をする。 ぼくは、ずっとずっと、 この言葉を誰かに、 自分を理解してくれる誰かに、 言いたかったのだと思う。 |
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| 「・・・有難う、レニ。」 隊長が微笑む。 どちらからともなく、 僕らは自然と唇を重ねた。 ざわ、と風が鳴り、桜の花びらが舞う。 僕らの、初めてのキスだった。 最近、帝都にはまた不穏な影が近づいている。 でも、ぼくには隊長が居る。 こんなに心強い事は無い。 戦いはまだ続く。 (了) |
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